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贅沢者は音も無く死ぬがいい  (レスター×ティニー、シャナン×パティ)


 一種の既成事実って奴だわ、とパティが言うので、そこんとこ詳しくとばかりにティニーが詰め寄りました。まったく彼女らしい反応です。

「だって、どうしたって年齢差は埋まらないし、身長差だって物凄いし、何もかもが違うんだもん。シャナンさまのお手伝いなんてひっくり返っても出来ないしさ」
「まあ、戦場でのお手伝いはそうでしょうね。ラクチェさんのようにしろなんて無茶もいいところ」
「うん。そうだよね、だから、無理なことはしないことにしたんだ。できないことはしない。あたしの身の丈に合わないことはやめたわけ。無駄だし、痛いのやだし、わけわかんないし」

 パティはその年齢差とか役割の差だとか身分差、そういうものを颯爽と飛び抜けたのです。
 いいじゃない、そんなの、の一言と一つの決心だけで、パティは恋する人の心を手に入れました。彼本人は未だに否定しているようですが、その否定がどんなに軟く薄いものか、彼本人もやっと分かってきたところでしょう。いちいち彼女のすることに妬くのは大人らしくないと誰か彼に説教して遣るべきなのです。

「いわゆる、自分らしくってやつかね」
「それだけでいいならいくらでもするのですけどっ」
「レスターの前のティニーって借りてきた猫よりかわいいよねー」
「かわいくいたいんですもの」
「そりゃそーよね」
「レスター様がかわいい子が好きならかわいくなりますし、色気があるほうがお好きならそうします」
「ひゃあ、尽くすねえ」
「あら、尽くさないほうが変ですわよ」
「まあ、そうなんだけどー。シャナンさまの場合、シャナンさまはひとりでなんでも出来ちゃうからなあ」

 あの人はまるで恋が娯楽のようで、とパティは言外にしたようなものです。
 事実、パティは娯楽でもいいから手を繋ぐ理由になっていて欲しい、と思うのでした。なにもかもが違う、高望みの人なのだから、いつか泣くなら、そのいつかが出来るだけ遠くであって欲しいと願い続けているのです。棄てられた時、惨めな思い出ばかりを引用しないようにと。

「レスターはどうなんだろね? 尽くす女が好きかな」
「聞いてくださいましよ」
「聞いたけど、なんかズレてるんだもん。お兄ちゃんに聞いてもらっても同じ。なんかこう……前以て答えが用意してある、みたいな」
「……やっぱり、心に決めた方がいるのかしら」
「ラナをどーにかしなくちゃ的なことは常に考えてるようだけど」
「ラナさんには敵いませんわよ。敵おうとも思いませんけれど」
「時期じゃない、ってのが正解なのかも。恋愛してる暇なんてねえよ、みたいな」
「真面目な方ですもの」
「糞真面目だよね。ほんとにあたしたちと血が繋がってるのかって感じよねー」

 ティニーはレスターを慕っていました。誰が見てもそうでした。
 ですがティニーは彼の事を何も知りません。本当に、何も知らないのです。驚くほど彼について何もわからないのです。彼についての情報はほんの少し、誰でもが知りえるものばかりでした。生真面目で、紳士的で、よく気がつき、温和な青年。誠実な言葉遣いをし、男女の隔てなく誰にでもその手を差し出す、聖人のような男。
 知っているのは、それだけなのです。彼の幼馴染、肉親、誰に聞いてもこれ以上の情報が得られないのですから。必死に彼についての情報を得ようとする度、ティニーだって後ろめたさは感じるのです。これではまるで弱みを握りたいと齷齪しているようじゃないの、と。

「――もし、あたしたちがすんごい平和な時に生まれてさ、普通に生活してたらさ、どんななんだろうね」
「どんなって。わたくしはやっぱりレスター様をお慕いしますでしょうね」
「そっかあ。あたしはどうだろ、シャナンさまには憧れて終わりかなー。平和な時代だったら、シャナンさま、とっくに結婚して二児のお父さんって感じだもんねえ」
「パティさんたら。そんなこと仰るの?」
「うん、だって、うん、……現実ってそういうもんでしょ?」

 わかっているのかしら、とティニーは明後日を向くパティを見るのです。
 その、捕まえた途端に逃げて行く準備を整えてしまったところに、彼が心底から慌てていることを分かっているのでしょうか。それまでは少女らしい思慕を身体いっぱいに広げていたというのに、突然萎んでいくのです。それも、理由もなく。

「でも、ま、もしなんて話してたらキリないねー」

 けらけらと笑い、パティは言うのです。すっかり少女らしくない憂いなど脱ぎ捨てていました。

「あれこれ言ったってさァ、結局無いもの強請りじゃない。贅沢者だよね」
「……ええ。わたくしも、そう思います。もし、なんてものがなくても、わたくしは構いませんわ。常に、きっと常に、最良を選んでいると自負していますから」
「言うねー。そうだよね、そうしちゃったほうがいいもんね」
「ええ」

 贅沢は言うものではないわ、とティニーはほほえみながらおのれに言い聞かせました。

「わたくし、レスター様を慕うように信じるように、わたくし自身も信用することにしてますの」

 と、最後に付け加えると、パティは不思議そうな顔をティニーに見せました。
 そしてたっぷりと間を空けた後、そうだよねえ、とパティはほほえみました。――とても少女らしい、明々とした笑顔でありました。













■ティニーさんの自作自演その5

シャナン×パティ(年の差カポー)はこれっくらいシリアスでも美味しくいただけます。
なんだかんだで5作目。相変わらずティニーは片思い。

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