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頬に――返り血。頬は血が固まり、すっかり赤黒く、気味悪くなっていました。
まるで焼け爛れたみたいだ、アーサーは笑って言いました。
「なんだ、俺が焼いてやろうか? 上手いぞ」
アレスは手の甲で左頬を拭い、いらんとだけ返します。
「あー……でっけえ黒子かと思ったら」
「珍しいか、こんなもの」
「まーねー」
頬に、落ちない黒いシミがありました。それをアーサーはまじまじと観察し、ふうん、とだけ呟きます。
「そーゆーわけね」
「何がそーゆーだ」
「他のシミ、見たことある?」
「普通、ないな」
「だろ。だから、俺は見てるわけ」
興味深そう、という顔ではありません。珍しいものをにやにやと眺めるアーサーに、アレスはうんざりしました。うんざりしましたが、確かにこんな顔になっても可笑しくないだろうと思うのです。アレスも誰かの『シミ』を一度見て見たいくらいは考えるのですから。
「へえ……もういいよ、消えてきた」
「そうか」
「デルムッドも、こんな風に?」
「そのようだな。顔を見合わせたとき、物凄く不細工だった」
アーサーは噴き出しました。
「頬ね。デルムッドも右?」
「ナンナも右らしい」
「へえ。見たこと、ないか。そうだよな、あの子が血煙上げるとこなんて見たことない」
神々のナントカを持つ証として、ヘンなシミがありました。これは小さな坊やでも知っていることです。見たことのある人間は本当に少ないのですが、それでも確かにそのシミは存在していました。
アレスがこのシミの存在を知ったのは、幼少期を通り過ぎ、人も斬り慣れた頃のことでした。乱戦時に返り血を浴びて頬が汚れた、その日のこと。この日、アレスは真っ黒い剣を持った糞坊主から、どこぞの落胤の糞坊主になったのです。
「シャナン王子のシミは見たことある?」
「ないな。見たのか」
「聞いただけ。水を浴びるんだと」
「水。顔に出るのか? だとしたら毎朝見るわけか」
「さー、どうなんだかね――顔かー、目立つね」
「自分では見えないのが美点だな、唯一の」
「そりゃ羨ましい」
肩を竦ませて、アーサーはくるりと体の向きを変えました。そうして、右腕を軽く上げます。
「見えるとさ、面倒だよなあ」
火打石を思い切りぶつけたような小さな火花がアーサーの指先から散ると、ほんのり、ほんのりと――シミ。
「色々とさ」
■ただの小ネタです……
おとこむっさい話を書きたかった気がする。
そしてそれに失敗した模様。
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